下肢静脈瘤って何?
下肢とは「足」、瘤とは「コブ」を意味します。つまり足の静脈がコブのように膨れてボコボコしている状態が下肢静脈瘤のわかりやすい状態です。
しかし、下肢静脈瘤と一言で言っても、見た目だけの問題では無いのです。「特に気にしていなかったけど実は静脈瘤だった」とか、「何年も足の症状に悩んで皮膚科や整形外科など色々受診したけど原因がわからず、実は静脈瘤だった」という方もいます。
今回はこの静脈瘤について、わかりやすく説明していきます。
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤の症状は多岐にわたり、その重症度もさまざまです。見た目の変化が顕著でも症状がほとんどない場合や、逆に目立った静脈瘤がなくても強い症状を訴える場合もあります。
最も一般的な症状は、脚の表面に浮き出た青紫色や緑色の蛇行した静脈です。これは美容上の問題として認識されることが多いですが、実際には血行障害のサインです。
見た目以外で多くの患者さんが訴える自覚症状としては、脚の重だるさ、疲労感、痛み、むくみ、こむら返り(特に夜間)などがあります。これらの症状は、長時間立ったり座ったりした後に悪化し、脚を挙上すると改善する特徴があります。
進行すると、静脈周囲の皮膚に変化が現れます。色素沈着(茶褐色の変色)、湿疹様の皮膚炎、皮膚の硬化などが見られるようになります。さらに重症化すると、潰瘍が形成され、これは治りにくく、感染リスクも高まります。
また、極端に進行した場合は、コブの部分が膨らみすぎて皮膚が非常に薄くなり、その部分をぶつけるなどの軽い物理的な刺激でコブが破裂し、出血することもあります。その場合、止血するには圧迫するしかなく(皮膚がペラペラなので縫って止血することができません)、治療に難渋することになります。
下肢静脈瘤の頻度、原因
##頻度
下肢静脈瘤は非常に一般的な血管疾患で、成人人口の20-25%に影響を与えていると推定されています。日本では、約2,000万人が何らかの形で静脈瘤を持っているとされています。女性は男性よりも発症率が高く、特に複数回妊娠を経験した方に多く見られます。年齢とともに発症リスクは上昇し、60歳以上では約50%の方が何らかの静脈瘤症状を持っています。
職業によるリスク差も顕著で、長時間立ち仕事をする看護師、教師、美容師、販売員などは特にリスクが高いことが知られています。また、遺伝的要因も大きく、両親のどちらかが静脈瘤を持つ場合、子供の発症リスクは約40%上昇します。
近年では生活習慣の変化により、座位時間の長い事務職や、過体重・肥満の増加も新たなリスク因子となっています。また、高齢化社会の進行に伴い、全体的な患者数は増加傾向にあります。早期発見と適切な治療介入により、重症化を防ぐことが重要です。
## 原因
下肢静脈瘤の主な原因は、静脈弁の逆流です。通常、脚の静脈には血液が心臓に向かって一方通行で流れるよう弁が付いていますが、この弁が壊れてしまうと、血液が逆流して静脈内に溜まり、静脈が拡張・蛇行します。
この弁逆流をもたらす要因として、まず遺伝的な静脈壁や弁の脆弱性が挙げられます。また、加齢による組織の弾力性低下も重要な因子です。女性ホルモンの影響も大きく、特に妊娠中はプロゲステロンの増加により静脈壁が弛緩しやすくなります。さらに、妊娠による子宮の拡大が骨盤内や下肢の静脈を圧迫することも原因となります。
長時間の立ち仕事や座り仕事は、下肢の静脈内圧を上昇させ、弁に過度の負担をかけます。肥満も同様に静脈への圧力を増加させるリスク因子です。また、深部静脈血栓症の既往がある場合、静脈弁が損傷を受け、静脈瘤発症のリスクが高まります。
生活習慣では、運動不足による筋ポンプ作用の低下や、便秘による腹圧上昇も静脈瘤の形成に寄与します。これらの複数の要因が組み合わさることで、静脈瘤は徐々に進行していきます。
静脈瘤の治療法
まず、下肢静脈瘤は、よほど進行しないかぎり、命に関わる重篤な疾患ではありません。ですので、下肢静脈瘤を指摘されたからと言って、すぐに治療しなければならないとか、このまま放っておいたら取り返しのつかないことになるのでは・・、と不安に思う必要はありません。極端なことを言えば、本人が困っていなければ放置しても問題ありません。
下肢静脈瘤の治療は、症状の程度や静脈瘤の状態に応じて選択されます。まず、初期治療や軽症例では保存的治療が中心となります。具体的には、弾性ストッキングの着用、適度な運動(特にウォーキングや水中運動)、脚の挙上、体重管理などが推奨されます。これらは症状緩和に効果的ですが、静脈瘤自体を消失させるものではありません。
より積極的な治療を希望する場合や症状が強い場合には、様々な侵襲的治療法があります。従来の外科的治療(ストリッピング手術)は、全身麻酔や入院を要しましたが、現在では日帰りで行える低侵襲治療が主流となっています。
##低侵襲なカテーテル治療
代表的な低侵襲治療には、カテーテルを用いた血管内レーザー焼灼術(EVLA)や高周波焼灼術(RFA)があります。これらは静脈内にカテーテルを挿入し、熱エネルギーで静脈を閉塞させる方法です。最近では2019年12月から、医療用接着剤(グルー)を用いたVenaSeal™という、さらに痛みの少ない新技術も導入されています。
##小さな静脈瘤には、硬化療法や瘤切除を
また、皮膚の表面の小さな静脈瘤に対しては、硬化療法や瘤切除を行うこともできます。硬化療法とは特殊な薬剤を静脈内に注入して閉塞させる方法です。瘤切除はその名のとおり物理的に静脈瘤を切除してしまいます。1-2mmほどの極小の皮膚切開から、血管を引っ掛けるフック状の器具を用いて、芋づる式にコブになった静脈を引き抜きます。特に、見た目が気になる静脈瘤に対しては、これらの方法が適しています。
##針も使わない方法も!!
自費診療にはなりますが、全く針も刺さない治療法もあります。これは、蜘蛛の巣状や網目状の、皮膚表層にある細かい静脈瘤に用いられます。美容医療用のレーザーを皮膚表面から当てて、静脈瘤を焼き潰してしまいます。こちらも、見た目が気になる細かい静脈瘤に良い適応になります。
さいごに・・
治療法の選択は、患者さんの年齢、全身状態、静脈瘤の部位や程度、患者さんの希望など多角的に検討して決定します。どの治療法を選択する場合も、専門医による正確な診断と、超音波検査などによる詳細な血管評価が不可欠です。また、治療後も再発予防のため、生活習慣の改善や適切な圧迫療法の継続が重要で、治療したらそれで終わりという訳ではありません。
いかがでしたでしょうか。それぞれの治療法の具体的な流れや、注意点など、まだまだお伝えしきれていない事は沢山あるのですが、これから随時追加していきますので、乞うご期待ください!!